彼と関係を持ったのは、ほんの軽い気持ちからでした。失敗への片道切符を受け取ったなどと、どうして思えるでしょうか?
当時、私には他にも本命の彼氏が一人いて、特に不自由は感じていませんでした。ただ、その本命の彼氏とは付き合いが長く、お互いに緊張感が無くなっていたのは確かです。付き合い始めた頃は毎日のように連絡があったのに、付き合いが長くなるにつれてメールでさえ回数が減っていきました。
もちろん寂しい気持ちはありましたが、自分からメールをするのも負けた気がするので、そこはグッと我満です。でも本当は彼氏からの連絡を心待ちにしていたんですよね。気が付くといつも新着メールを問い合わせている自分がいました。
携帯電話の着信音が鳴れば、慌てて確認する毎日。そしてその着信が家族や友達からだったりすると、ものすごく落ち込んでしまうのです。本当に気持ちが疲れる恋愛でした。今思うと、違う意味でもこの恋愛は失敗なんですよね。
そして、そんな時に関係が始まったのが、彼でした。
そしてその時の私には、それがさらなる失敗の始まりだということなど、予想すら出来ませんでした。
職場恋愛はふとしたきっかけから
彼とは職場が同じでした。
私より五歳年上で、ものすごく仕事が出来る。もちろん独身で、当時は付き合っている人もいないということでした。最初のうちは一言二言会話を交わす程度だったのですが、次第にお互いに相手が気になり始め、当然の流れである日、彼から食事に誘われました。
もちろん本命の彼氏のことが頭に浮かび、少しだけ罪悪感もありました。でも、私にはもう彼氏からの連絡を待ち続ける気力など残っていませんでした。そして、ついに彼と二人きりで食事に行ってしまったのです。
それは、久しぶりに楽しい時間でした。やっぱり恋愛とはこうあるべきだなと、改めて思いました。会話は弾み、もっともっと彼のことを知りたいと思いました。多少の緊張はありましたが、この高揚感はたまりません。
そして私は、結局食事が終わってもまだ、本命の彼氏の存在を打ち明けることが出来ませんでした。だって打ち明けてしまえばこの楽しい時間が無くなってしまう。私さえ黙っていれば良いだけ。打ち明けてしまったら、また本命の彼氏からの連絡を待つだけの毎日に戻ってしまう、、、
そう思うと、途端にうんざりとしてしまうのです。
そして、打ち明けることが出来ないまま彼との付き合いが続いていきました。
幸いにも、その頃にはもう本命の彼氏からデートに誘われることは無くなっていたので、予定が重なることはまずありませんでした。
それでも、まだ私には本命の彼氏と別れたくない思いがありました。本当に卑怯ですよね。
ちゃんと分かってはいたのです。
それからというもの、私はかなり浮かれていました。本命の彼氏からの連絡を気にしながらも、それでも携帯をチェックする回数は格段に減っていました。私は新しい恋愛が楽しくて、仕方がありませんでした。この新鮮な気持ちは、恋愛の始めにしか味わうことが出来ません。
もちろん職場にいる時は、私たちの関係はトップシークレットです。彼と二人で乗り合わせるエレベーター。二人きりでこっそり中で抱き締め合ったり見つめ合ったり、それはそれは刺激的でした。
もうこのまま、新しい彼に乗り換えてしまおうかな、とさえ思い始めていました。だって、この彼が失敗の原因になるなんて、その時の私には思いもよらないことなのですから。
理想の女性像は異常に高いのにデートは割り勘。
やはり恋愛の良いところは、最初だけなのでしょうか?時間が経つにつれて、彼に対して少しずつ違和感を感じるようになってきたのです。
この頃には、ひょっとしたらこの恋愛も失敗かな?と少しずつ思い始めていました。まず、車の運転が荒いということに気が付きました。運転中、周りに文句ばかり言っているのです。早く行け!俺の前に入って来るな!何をゆっくり走ってるんだ!バカにしているのか!などと、、、
こんなことを言う人は嫌だなと常々思っていましたが、それでも私は真っ正面から受け止めないようにしていました。恋愛中は現実をしっかりと見ない方が良い時もある。そう、私さえ聞き流せば良いだけ。彼は負けず嫌いなだけなんだ。私はひたすら、プラスに考えるように努めました。
この考え方がもうすでに恋愛において失敗なのに、その時の私にはそうするしか方法がありませんでした。
今彼を失ってしまったら、またうんざりするような毎日に戻ってしまいます。そんな失敗だけはどうしても避けたくて仕方がありませんでした。
その他にも、同じ服は二度と着るな、美容室には毎週通って欲しい、女はいつもキレイでいないといけない、そして一歩後ろに下がって俺を立てながらも、家では甘やかしてくれる存在でなければならないなど、金銭感覚や女性に対する考え方がめちゃくちゃなのです。
そしてそんなことを散々言っておきながら、彼が私にいつもキレイでいる為の費用を出してくれるはずがありません。それどころか、デートの度に食事代はもちろんのこと、ホテル代までもが割り勘なのです。ホテル代まで割り勘だなんて、最悪ですよね。失敗の典型です。
それ以外にも、だんだん深夜に突然呼び出されたりするようになり、次第に私は彼と一緒にいることが苦痛になっていきました。それでも私はまだ彼を手放したくはないと思い、必死でしがみついていたのです。
その頃、本命の彼氏とはもうすでに音信不通の状態になっていて、事実上もはや破局していました。ただ、彼氏とはっきりとした別れ話をしたわけではなかったので、まだ別れてはいないとバカな私は本命の彼氏にまでもしがみついてたのです。
どう考えても上手くいっているはずがないのに。けれど、どちらかが一人でもいなくなれば、バランスが崩れてしまう。保険としてどちらかがいるから、なんとかやっていけている。私には自分の精神の安定のために、二人共必要だったのです。
因果応報、二股なんてする女に幸せはこない
そして約半年が過ぎました。
ここからは、さらなる失敗への道が待ち受けていました。職場の人から、彼が他の女性と婚約をしたことを聞かされたのです。
それはあまりに突然のことでした。彼は、婚約者がいることをなんて上手に隠していたんだろう。そして、私もどうして気が付かなかったのだろう。本当にバカもいいところ。私なんて、ただの遊びだったんだ。
恋愛中ってどうしてこんなにも真実が見えないの?自分が失敗していると思いたくない気持ちも、きっとどこかにあるのでしょうね。けれどこんなつらい展開になっても、私には彼を責めることは出来ません。
類は友を呼んだだけ。因果は巡る。ただ、それだけのことなのです。本当に、ただ恋愛をしている自分に酔っているだけなのですよね。自分に酔っていることが、もうすでに失敗なのですよね。
彼の存在にあんなにもしがみついていた私ですが、その後、急速に彼への気持ちが冷めていきました。いや、ようやく目が覚めただけのことなのです。彼も私が婚約者の存在を知ってしまったと、気が付いているようでした。
なのに言い訳すら、言いにこない。サヨナラすら、言いにこない。彼にとって私は、その程度の存在だったのです。あぁバカバカしい。もう、どうでもいい。
それからしばらくして、私は本命の彼氏に自分から連絡を取ることにしました。全てに決着をつけたい、そんな気持ちがありました。最初は、冷たい態度を取られたらどうしようと思って少し怖かったけれど、拍子抜けするぐらいに彼氏の対応は今まで通り優しく、音信不通だったのは一体何?と、思ってしまいました。
一瞬、またやり直せるかも?と期待してしまった、懲りない私がいました。
しかし、彼氏の言葉はこうでした。君のことを好きだと思う気持ちは、もうないんだ。サヨウナラ。今までありがとう。
そう、二兎追う者は一兎も得ず。
そして私は今、特定の恋人は作らず、女友達と共に趣味に没頭しています。もうなんだか、恋愛にはほとほと疲れてしまいました。常に男の人が側にいないといけない、それは私のただの思い込みでした。一人でも楽しいことはたくさんある。相手に合わせることもなく、自由に生活するのも良いものだ。
今はそう思っているところです。
この失敗だらけの恋愛で、学んだことはとても大きかった。
でも、でも、、、
いつか本当のありのままの私と向き合ってくれる人と出逢えるかもしれない。
まだ、そんなことを望んでいるたくましい私がいるのでした。