私の彼は有名ミュージシャン。芸能人になった彼と一般人の私の大切な恋愛の思い出

ライブ

 

ライブ

同じバンドを好きだったミュージシャンの彼

 

私は中高生の頃、音楽が大好きでした。何よりハマったのはロックの音楽で、BUMP OF CHICKENやRADWIMPSはもちろん、マイナーなバンドの楽曲まで隅々に聞いていました。

 

 

そんなある時、私は彼と出会うことになります。

 

同じ年で同じように都心まで30分以上かかる田舎のとある町に住んでいる男の子でした。彼と知り合ったのはあるロックフェスでした。観客として同じバンドのステージを見ていたことがきっかけで盛り上がり連絡先を交換しました。

 

程なくして、彼自身も音楽をやっていることを知りました。連絡先交換だけではなくSNS上でも友達になったところアイコンが楽器の写真だったのです。私の憧れていたバンドのパートと同じ楽器でしたから、もしかしてフェスでも同じメンバーさんを目で追っていたのじゃないかと思い、しばらくその話で盛り上がりました。

 

当時は携帯電話に着信音や、電話をかけた時の呼び出し音に着うたが設定できるようになっていました。私と彼は同じ大好きなバンドの着うたを設定して、お互いが電話をかけると同じ曲が流れるようにしていました。時々楽器の話をしました。彼自身のやっているバンドの話もしました。

 

ある時、やっとスタジオ練習だけではなく外での初めてのライブを開くことになったので、是非見に来て欲しいと誘いを受けました。

 

もちろん彼以外のメンバーと会うのは初めてでしたし、彼とは同じバンドを好きだったものの彼自身が楽器を演奏するところを見るのは初めてのことでした。

 

自分も都心から離れたところに暮らしていましたし、向こうが演奏するのも都心から離れた町の小さなライブハウスでしたので、1時間以上電車に乗って彼の初ライブを見に行きました。

 

 

正直、ただの友達だったらそんなことはしないと思うので、今考えるとその時にはもう彼のことが好きだったんだなと思います。

 

彼の演奏は見事でした。初めてのライブにも関わらず一度の失敗もない完璧な演奏でした。何より驚いたのは他のバンドがみんな有名なバンドの曲をカヴァーしているのにたいして、彼らのバンドだけが全てオリジナル曲を用意していたことです。

 

しかも曲や詞は全て彼が書いたとあとで聞いて、私はその才能にも一目惚れしてしまいました。

 

 

その日は次のライブでやる新曲のデモテープをもらって帰りました。今でも私の恋愛における大切な宝物として家に保管しています。それが18歳の頃のことでした。高校を卒業するまでずっと彼のバンドのライブに通い続けました。

 

 

高校卒業、上京、そして有名人へ

 

私は高校を卒業すると自分の決めていた進路通りに大学進学をしました。しかし、彼は悩んでいました。ご両親は自営業をしており、そこを継ぐようにと言われていたらしいのですが、彼自身が東京に出て音楽をやりたいと思うようになり、毎日喧嘩をしていたそうです。

 

しかし、先に東京に出ていたお兄様が就活に失敗して地元に戻ってきたのをきっかけに、後継ぎを強引にさせられる話は無くなり、私の大学入学の数ヶ月後、彼は上京しました。

 

私もまた東京の大学へ通っていたため、これでやっとまた彼に会えるようになる、なんなら近くにいるようになると浮かれていました。

 

私は昼に大学へ通い、少しだけアルバイトをして家に帰る。
彼は昼にアルバイトをして、夕方音楽活動をして家に帰る。
そして夜~明け方くらいまでずっと二人でファミレスで夢を語ったり、長電話をしながら好きな曲をかけたり、仲良く過ごしていました。その友情が恋愛に変わるまで、あまり時間はかかりませんでした。

 

私と彼がお付き合いを始める頃には、もう彼のライブのお客さんは私だけではなくなっていました。地元にいた頃からずっと追いかけてくれていた常連のお客さんだけは、私と彼の関係に気づいていましたが、他の多くのお客さんは、私もただのお客さんか、昔ながらのファンの一人くらいに思っていたでしょう。

 

周りの女の子が大学生同士や社会人との恋愛を楽しみ、SNSに写真をアップしてラブラブアピールをする中、私だけが人に言えない恋をしていました。

 

彼からもらったデモテープも、以前はごく親しい友人に聴かせ「これ私の好きな人が書いたんだ!すごいでしょ?」と自慢していたのですが、今もしバレたらファンの人に睨まれたり、他人の手に渡ったりなどしたら激レア品として売りに出されたりするだろうと思い、部屋の一番奥に眠らせていました。

 

今思うとそれはもう私の中で呪いのようになっていた気がします。彼との恋を他人に絶対に言えない、それを表す品物として。

 

 

彼が有名になるまではあっという間でした。

私が大学生のうちに、彼は300人規模のライブハウスを埋められるくらいのお客さんを集めていました。CDもたくさん出ました。

 

 

手売りで小銭を彼や彼のバンドメンバー自身とやりとりして不織布に入ったディスクを買うのではなく、レコード屋さんへ行くと彼の写真と共にオススメ商品として説明が書かれて、レジで買うようになりました。

 

私と彼が出会うきっかけとなったフェスに、彼も出演が決まりました。テレビからは彼の曲が流れ、通りすがりの女の子が彼の芸名を口にしていたこともありました。

 

いつの間にか彼はスターでした。

一番最初のライブへ行ってからずっと見てきたはずの私も、もう彼のライブへ行くことはほとんど無く、プライベートでの彼の姿を見るばかりでした。むしろ周りの子が話題にしているのを聞いて、初めて今の彼の仕事内容がわかるといった状態でした。

 

会える時間は激減し、しかしライブに行けば、女の子のファンに関係がバレて大変なことになるかもしれないので、行けない。会えない日々だけがひたすら続きました。

 

 

 

メジャーデビュー。そしてテレビの向こう側へ

 

すっかり有名人になり忙しくなった彼は、ついにメジャーデビューが決まりました。ある音楽事務所から声がかかったのです。それは私も知っているほど有名なところでした。

 

 

何より、私と彼が出会うきっかけとなった共通の好きなバンドと同じ事務所だったのです。もちろん先輩後輩の関係として、そのバンドの方々にご挨拶する機会もあったと彼は言っていました。

 

しかし、メジャーで仕事をしていくというのは想像以上に大変なことだと実感する出来事が起きました。

 

 

ある時彼が突然別れを切り出したのです。理由を尋ねると、今所属している事務所は、恋愛禁止にこそしていないけれど、彼女を作ったり結婚したりするとお給料が下がったり仕事をもらえなくなるという風潮があったのだそうです。

 

 

私はあまりライブに足を運べなくなっていましたので、事務所に関係がバレてはいませんでした。また、ライブに行かなくなっていたため気づいていなかったのですが、非常に女性ファンの多いジャンルに変わっていってしまったそうで、純粋に楽器や音楽が好きな人達だけではなく、顔が好きだったり、恋愛目的でファンサービスを受けに来るお客さんも増えてきたのだと彼から聞かされました。

 

道理で昼のデートが減ったり、風邪でもないのにマスクをしているなと思いました。でも、芸能人との恋愛とはそういうことなんだと思って我慢していましたが、まさか別れを切り出されるとは…。

 

その後もしばらく交際は続きましたが、結局私が就職し、より会える時間が少なくなったことをきっかけにお別れすることを決めました。

 

その後は事務所に言われたとおり、お互いの連絡先を削除し、今では一切会っていません。朝出勤する時にテレビをつけると、映画の主題歌として話題になったり、今注目のアーティストとしてインタビューを受ける彼を見ることができます。

 

 

私と別れたおかげで事務所でもうまくいっているようで、今度先輩(私と彼が好きだったバンド)と一緒に共同のフェスを開催するという話もネットで見かけました。

 

つい先日も、会社で新しく入ってきた派遣の女の子に趣味を尋ねたところ、ライブに行くことだと言っており、どんなアーティストが好きか聞いたところ彼のバンドの名前が出てきました。

 

その子にあの部屋の奥で眠るデモテープの話は到底できません。

 

高校時代、大学時代から就職に至るまでずっと一緒に彼といたおかげで私の人生は恋愛経験豊富なものではありません。この年齢で結婚していないのも、婚活に失敗した人みたいなレッテルを貼られることがよくあります。

 

 

しかし、彼との非日常的な恋愛や、隠れてこっそり曲を聴いたり、デモテープを大切にしていたり、テレビ越しにその仕事ぶりを見るのは嫌いではありませんでした。

これからどんな恋愛をしても、彼の今後の活躍をずっと祈っています。

 

26歳 OLの誰にも言えなかった恋愛の話

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