同性愛者のメル友募集掲示板での出会い
当時、わたしは自分の恋愛に悩んでいました。それは中学生の頃でした。
男の人を好きになることが多くはありましたが、恋が実ったことはなく、はっきり言って逃げたんだと思います。
男性との恋愛ではなく、女性との恋愛に。
異性との出会いは、学生生活をしていく中でいくらでもあります。もちろん、同性でも出会いはあるのですが、相手がわたしを恋愛対象として見ることのある出会いはほとんどないです。むしろ同性愛なんて気持ち悪いという意見が大半でした。
高校生になり、人並みに恋愛を楽しみたいと思いましたが、男性とお付き合いすることが考えられず、女性の相手を探すことにしました。
もちろん、ただ待っているだけでは見つかりません。恋愛対象となる女性を探すときは、いつもネットの掲示板を使っていました。当時はLINEなんてありませんでしたから、同性愛者のメル友募集掲示板で、恋人になれるような人を探すんです。
募集記事を出すのですが、なかなか応募メールは来ず失敗することが多く、自分から送ってもお断りの連絡をいただくことが多かったです。
そんな中、とても気になる募集分を出している女性がいました。どこが、というと明確に思い出せないのですが、とにかく気になったんです。
文章を読んだだけで「いいなぁ、どんな人なんだろうなぁ」と気になって、いつもより丁寧で細かい文章の応募メールをしてみました。自己紹介もしっかりしたし、自分がかわいく見えるような写真撮り送付しました。
返事はあまり期待していなかったけど、ずっとドキドキしていたことを覚えています。
そしてその日のうちに、メールの返信が来ました。ぜひ仲良くしてほしいという旨の内容で、とても興奮しました。
他愛ない会話をしているうちに、どんどん彼女に興味が出てきて、いろいろなことを聞きました。2つ年上の女性で、たった2つしか変わらないのに物知ありで、落ち着いていて、子供っぽいわたしとは大違いでした。
メールの返信が待ち遠しく、つまらなかった毎日がバラ色になるとはまさにこのことでした。
これが「好き」ということなのかは分からなかったけど、お友達として終わるのでも別にいいか、と思っていました。
メールしているだけでも楽しかったし、まだ考えが幼かったからか、しっかり人と付き合ったことがないからか、好きと伝えて今の関係が崩れることのほうが嫌だったからです。
今思い返しても、あの時期はとても幸せだったと思えます。
まさかの2つ上の同じ中学校の先輩!
しばらくの期間、メールを続けていました。
朝の「おはよう」から夜の「おやすみ」まで毎日の日課でした。朝連絡が来ないと不安になったり、夜連絡が来ないと寝落ちしちゃったのかなと可愛く思えたり、本当にメールの一つ一つで一喜一憂していました。
今思えばあれが恋愛だったということはすぐに分かるのですが、当時は不思議な気持ちだなぁと思っていました。
ある日「そういえば私の顔写真見せてなかったよね」と言われ、彼女の写真が送られてきました。
可愛いという言葉で表現するのには勿体なくて、色白で、キリッとしていて、整った顔立ちで、薄くて綺麗な唇で、触りたくなる柔らかそうな髪で、とにかく今まで見た中で一番美しい女性で、中性的な見た目もとても好みでした。
うまく伝えられなかったけど、とにかく素敵であることを伝えました。お世辞と思っていたようだけど、そんなつもりは全くなかったです。彼女に出会う前、いろんな人と掲示板からの出会いでメールしたことがありましたが、正直好みと思える方は一人もいなかったので衝撃でした。
そこから、さらにのめり込むように彼女とメールをしました。今思えば、それが失敗だったのかもしれません。
顔なんて見ることがなければ、ただのメール友達で今も関係が続いていたかもしれないなー、と。
メールをしていくうちに、お互い住んでいる場所が近いことを知りました。そこまではただの偶然と思えましたが、話を進めていくと出身の中学校まで同じだといいます。
2つ年上ということは、わたしが中学1年生の時に3年生、同じ中学校で過ごしていた期間があったということです。衝撃を受けたし「これは運命なのかもしれない」と感動さえしました。
もっと彼女のことを知りたい、仲良くなりたいと思いました。それが彼女に伝わっていたのかはわかりませんが、次第に会う前提のメールのやり取りへと変わっていきました。
わたしはかなりの人見知りだし、いわゆるコミュ障です。それでも彼女に会いたいという気持ちがなくなることはなく、頑張って楽しい時間を過ごしてもらえるようにしようと必死でした。
会うまでに彼女の好きなマンガは全部読んだし、好きなバンドの曲は一通り聞いて覚えました。かなりの時間を費やしましたが、苦ではなく、むしろ彼女の好きなものに触れることができた時間はとても幸せなものでした。
こんな必死になっているなんて、彼女は全く思っていなかったでしょう。その時にはもう「可愛い後輩」くらいにしか思われていなくて、恋愛の相手にすらされていなかったのかもしれません。
実は彼女はレズビアンではなく、、、
そうこうしているうちに、実際に会うことになりました。
ひどく緊張していて、前日の夜は眠れないほどでした。同じ中学校ではありましたが、彼女は引っ越してしまっていて、数駅先に住んでいたのですが、わざわざわたしの家のほうまで足を運んでくれました。
待ち合わせ場所で待っていると、写真で見たよりもっと綺麗で、華奢な女性が近づいてきます。
「ああ、彼女だ」と思いながらも自分から声をかけることができず、俯いていました。
すると彼女から「お待たせ」と。
彼女に送った写真はかなり加工して可愛く見えるように工夫していたのに、すぐに分かってくれて嬉しかったです。初めての対面で頭の中は真っ白で、正直何を話していたのか記憶が曖昧です。
近くのファストフード店に入り、おそらく中学の話とか、彼女の好きなものの話とかをしていたと思います。沈黙が嫌で、必死に話をしているのを、大人な彼女は笑顔で聞いてくれていました。
その日は夜遅くまで二人で話しました。お別れして家に帰り、自分の部屋で彼女のことばかり考えていました。
ようやく、これが「好き」ということかなー…と思い始めました。
それからも彼女とメールは続きましたが、多忙な彼女はなかなか時間を作ることができず、会うタイミングが合いませんでした。仕方ないと思っていたけどやっぱり寂しくて、会った日のことを何度も思い返しました。
わたしがうまく話すことができなかったから「失敗したからもう会いたくないのかな…」と考えたりもしました。
それから何か月も経ち、メールする頻度も減ってしまいました。最初の頃はメールをずっと待っていたりもしたけど、いつ来るかもわからない返信を待つことは次第になくなり、たまに来るメールには大喜びしていました。
久しぶりに来たメールに、週末中学校でお祭りがあることが書かれていました。言われるまですっかり忘れていましたが、毎年やっているお祭りです。
正直中学時代はいい思い出がなく、足を運んでいなかったのですが「行こうと思っているんだー」という彼女の言葉に、行くことを決心しました。友達と行くんだろうから、一緒には回れないだろうけど、挨拶くらいしたいなーと。一人では不安だったので、高校の友達3人と一緒に行くことにしました。
当日、彼女と待ち合わせはしませんでした。行くということは分かっていたから、神様がわたしに味方をしてくれたら会えるだろうと。
友達はお祭りに夢中でしたが、わたしはそんなことはどうでもよくて、人ごみの中彼女を探すことに必死でした。
しばらく探し回っていると、急に背後から声をかけられました。それが彼女の声であることはすぐに分かり、振り返ると浴衣姿の彼女がいました。
浴衣姿という補正もあったとは思いますが、以前会った時より更に綺麗で、ドキドキしながらも挨拶をしました。…が、同時に彼女の手が知らない男と繋がれていることに絶望しました。
あの時、わたしはどんな顔で、どんな声で、どんな気持ちで彼女と他愛ない話をしていたんだろう。
正直その場から逃げ出したい気持ちでいっぱいでした。
その男を彼氏だと紹介され、現実を突き付けられました。
「またメールするね」と言い残し彼女が去って行った後、わたしは友達に「急用ができて帰らなければいけない」と嘘をつき全力疾走でその場を離れました。
少し離れた真っ暗な公園で一晩泣いていました。
とてもお似合いな二人で、わたしが彼女の隣にいたいなんて夢を見すぎていたと反省さえしました。彼の隣にいる彼女はとても幸せそうで、奪い取ってやるという気持ちさえ起きませんでした。
「バイセクシャルであること、彼氏がいること、言ってくれればよかったのに…」とどうしようもない気持ちを誰にぶつけることもできず、でもこの気付いてしまった好きという感情を誤魔化すこともできず、そっと彼女のメールアドレスを受信拒否設定にしました。
ひどい女だと思われても仕方ないけど、どうすればいいか分からなかったんです。
結ばれなかったことは辛かったけど、いい恋愛ができたと自分では思っています。彼女が今どうなしているか、わたしに知ることはできないけど、幸せでいてほしいと強く願っています。
23歳 会社員の