詐欺師の恋愛テクニック
その彼と出会ったのは確か18歳の終わりでした。当時勤めていたキャバクラのお客様でしたが、そのお店のお客様にしてはとても若く年齢は22歳(自称)でした。
恋愛対象になるほど容姿が特に好みだったわけではなかったのですが、まだ18歳の私は「なぜこの年齢でこんなにたくさんお金が使えるんだろう」などと、恋愛感情というよりは彼に対する好奇心から仲良くなりたいと思うようになり、その席につくと積極的に話し次第に安定して指名をもらうようになりました。
これが失敗のはじまりです。もちろんキャバクラには同伴やアフターもありますから、親密な関係になることは簡単で、ましてや当時18歳だった私なんていとも簡単にまるめこまれるようにその彼とはお付き合いをすることになりました。
ただ、お付き合いをしてからというもの当然お店には来店されなくなり、私を個人的に呼びつけるようになりました。
それも「この人は私を独占したいんだ」などと怖いくらい都合の良い解釈をして、毎回うきうきしながら会っていました。
これが第二の失敗です。
最初のうちはそれはそれは楽しかったです。普通のカップルのように一緒に遊園地に行ったり、近くのショッピングモールでお買い物をしたり、若者らしくプリクラをとったり・・・。
どこにでもある恋愛の形でした。
ただある日、彼は自分が詐欺師(自称)だということを打ち明けてきて、自分の失敗談を話したり弱い部分を私に見せるようになりました。
「本当はこんなことしたくない」「生活に困っているからやっている」「抜け出せない自分が怖い」そんな話を聞いているうちに、彼に対する興味本位な気持ちから「助けたい、力になりたい」という気持ちが湧いてきて、この人のためなら大抵のことは我慢できると思うようになりました。
おそらくその時くらいからでした。彼と過ごした後のお財布の中身が減っていたのは。いつ抜かれていたのか・・・勝手に私のカバンを漁る彼の姿を想像すると本当に怖いです。
母性本能に惑わされる
最初は「あれ?私今日こんなにお金使ったんだ」「銀行で下ろさなかったっけな」くらいの感覚でしたが、次第に「5千円札が一枚ない気がする」「絶対に使ってないのに」と、彼の犯行に確信を持つようになりました。
ただ、これが恋愛における母性本能の怖いところで、一度弱いところを見せられているので「本当に生活が苦しいのかも」「私に貸してっていうのがいいづらいんだろうな」など、おかしいんじゃないかと思うくらい都合よく解釈をして、しまいにはそっと1万円札を玄関に置いて出てきたり、わざとお財布に多めにお金を入れて彼に会いにったりしていました。
もう本当にどうしようもありません。これが第三の失敗です。
そんな日々が続いて私も貯金が尽きてきて、生活が苦しくなってきました。ホテルのお金ももちろん私が出していたのですが、ある日生活に困っていた私は実家に彼を招きました。
実家にはお財布の他に貯金や家族のお金もあるので、彼を招くのは少し怖い気もしましたが、案の定、実家にあげてしまったのが失敗でした。
彼が帰った後、嫌な予感がして教えていないはずのへそくりが入っている引き出しを開けると、やっぱり。
貯金していた現金が入った封筒(銀行に預ければいいのに・・・)ごとごっそりなくなっていて、さらに追い討ちをかけたのが母の財布からもお金がなくなっていたのです。
もはやここまでくると、彼の腕に尊敬の念すら抱きます。ここから少しずつ(それでも少しずつですが)私の目は覚めて行き、恋愛感情も薄れ少しずつ彼とは距離をとるようになりました。
ただ、やっぱり定期的に会って、しかもその度にお金を渡してしまうのは、どんなに脅されたり怒鳴られたり、好きと言われたりした時よりも「辛い」「苦しい」「怖い」「助けて」と頼られた時でした。
個人差があるとは思いますが、女性の母性本能とはとても強く、これを恋愛面で悪用されるととんでもない失敗をすることになります。