レズビアンとしての目覚め
私が自分の独特な恋愛感情に気がついたのは小学校3年生ぐらいの時でした。当時テレビで観た宝塚歌劇団の映像に心を奪われたのがきっかけです。
女性が男の格好をしている。しかもそれがとてつもなくかっこいい!周りの友達はジャニーズに夢中でしたが、私は1人宝塚の男性スターに恋焦がれる日々を送っていました。
母はもともとお芝居が大好きな人で、よく私をいろんな舞台に連れて行ってくれました。宝塚に興味を持ち始めた私に、喜んで雑誌を買い与えてくれたのも母親です。漢字が多くて難しかったけれど、写真を見ているだけで幸せでした。私が住む地域には、めったに宝塚公演がありません。大人になったら本物の宝塚を観に行く!これが私の夢になりました。
クラスでは普通に気になる男の子がいました。運動ができて頭のいい、そして笑いのセンスもある、いわゆるみんなが好きな男の子でした。一方で、私には五つ違いの姉がいたのですが、姉の友達でバレー部に所属するショートカットの中学生がいました。
色白で切れ長の目で、声のトーンが少し低い先輩でした。目が合えばはにかんだように微笑んでくれます。その女の先輩が遊びに来るのが、密かな楽しみになりました。
この頃から、私の少し屈折した恋愛感情を始まったのだと思います。普通に男の子のことも気になるけれど、一方で女性に対する憧れの気持ちで心を躍らせる。そんな人に言えないワクワクを楽しんだり、 妄想にふけったりする日々を送っていました。
女性に対する憧れの気持ちを隠すことはしませんでした。かっこいい上級生を見つけては「あの先輩素敵だよね」と言ってみたり、宝塚の男役スターの写真を持って行っては自慢をしたりしていました。当時まだレズビアンという言葉が一般的ではなかったので、そのような目で私を見る友達は1人もいませんでした。
男子に対する「おかま」という言葉には、冷やかしの風潮はありました。テレビでもオネエ系のタレントが多く活躍し始めた時期でもあります。冷やかしは、認めることへの前兆だと思っています。それだけレズビアンは、まだまだ世界から認められるには遠い存在だということです。
私のかっこいい女性への憧れは、小学校を過ぎるとますます強くなっていきました。周りでは初めて男子と付き合う女の子も増えてきました。私も人並みに、男子とそういう仲になりたいという感情はありました。そうなることが当たり前という気持ちが自分の中にあったのだと思います。
高校生になって初めての彼氏ができました。外見が好みのタイプで、そこそこ好きになった人です。たまたま向こうも私のことを気に入ってくれて、1年間だけ付き合いました。
学校帰りに ファストフードに寄ったり、休みの日に映画に行ったり。向こうの親が留守の時に、彼の部屋に遊びに行ってそういうことになったこともあります。経験してしまえばたいしたことではなく、会うたびにドキドキするということもありませんでした。
何かが物足りない・・・。そう思いながら付き合って、どちらからともなく自然消滅していきました。
この時から私の中で、はっきりとした感情が芽生えました。
「今度はかっこいい女性と、お付き合いをしてみたい!」
高校卒業と同時に、その決意を行動に移すこととなりました。そしてそれが大きな失敗の始まりでもあったのです。
ジェンダーフリーな恋愛の先に
高校を卒業した私は地元を離れ、少し都会の街で一人暮らしを始めました。アルバイトをしながら、色々な飲食店に1人で出向くことが趣味になりました。
特に夜の飲食店では、そっち系のお姉さんが働いているバーや小料理屋が多くあります。噂で「あそこのお姉さんはそうだよ」と教えてもらうこともあれば、自分のアンテナで気がつくときもあります。
いつでも1人で行動することが、かっこいいお姉さんとお近づきになる近道です。カウンターを挟んで何気ない会話を始めるうちに、距離を縮めていくことができます。気に入ってもらって、お店の外で会うようになったお姉さんもいます。
一緒に明るい空の下を並んで歩いている時は、かっこいいお姉さんを独り占めしている自分に興奮していました。でも周りからしてみれば、ただ普通に仲の良い女友達同士で歩いているようにしか映っていなかったでしょう。
これはレズビアンの特権ともいえます。堂々と手を繋いで歩いても、カフェで何かを食べさせ合っても、ほっぺたをくっつけあって写真を撮っても、何の違和感もないからです。
いろんなかっこいいお姉さんと仲良くなれる事に味をしめた私は、飲食店業界の人がよく訪れる食品の卸業者店舗でアルバイトを始めました。一般のお客さんも入れるお店ですが、お店の人向けに大きいサイズの調味料や冷凍食品を販売している店舗です。
なぜこの店でのアルバイトを始めたかというと、そっち系のお姉さんと出会えるチャンスが多いからです。かっこいいお姉さん達は、夜のお店で働いたり、自分で飲食店を開く人が少なくありません。
男勝りにフライパンを振り、かつとても繊細な美味しい料理を作る才能に長けてる人が多いです。こちらから出向かなくても、働いているだけで出会えるチャンスがあります。また気に入ったお姉さんがいれば、領収書を書くことでお店の名前を突き止めることができます。
あとはなるべく愛想よくして顔を覚えてもらい、そのお姉さんのお店にお客さんとして訪れる。そして通いつめる。これが私の恋愛テクニックでした。
もちろん中には見極めを失敗するお姉さんもいます。そう思ったけど実は違った。普通に結婚して子供がいる人だったなど。それでも私はめげません。学生時代にずっと不完全燃焼だった思いを満足させたい一心で、自分からアプローチしていきました。
永年の経験から、出会っても次に進展しにくいのが女性同士の関係です。ジェンダーフリーになったとはいえ、まだまだ男性同士に比べてオープンな世界ではないからです。
腐女子があっても、その逆はあまり存在しません。とても繊細で傷つきやすい人が多いので、 相手の出方を待っていては時間ばかりがたってしまいます。 たとえ失敗してもいい、それでも自分から行こう。そう思いながら頑張っていました。
そしてとうとうその中の一人のお姉さんと、深い仲になっていったのです。
隠していたバイセクシャル
そのお姉さんは、自分のバイト先に来ていたお得意様でした。いつも1人でやってきて、テキパキと商品を選び、大量の荷物を軽々と持ち上げて自分の車に積んで行きます。
頼まれてもいないのに一緒に車に荷物を運ぶことを手伝ううちに、世間話をしてくれるようになりました。
ほどなくしてお姉さんが営むお店に通うようにもなりました。坪数のとても狭い店で、お姉さんは1人でおかず屋さんを切り盛りしていました。持ち帰りはもちろん、店内では生ビールも提供していて、その場で買ったおかずを食べるスペースがあります。
お姉さんが作る揚げたての鶏の唐揚げは最高で、2人前をペロリと食べる私のことをいつも微笑ましく見ていてくれました。
話しているうちになんとなくお互いが特別な感情を持っていることに気がつきました。そしてお店が定休日の日に、デートに行くようになりました。料理が不得意な私が作ったお弁当を、美味しそうに食べてくれました。真昼間から外の公園で2人で飲むビールは、とてつもなく美味しかったです。
私は昔から宝塚に憧れていたことなども、全てお姉さんに話しました。でもたったひとつ内緒にしていたことがあります。それは私が男性ともお付き合いしていたことがあるということです。
しかももっと最悪なことに、それは大人になってからも度々続けられていたのです。
私は完全にどちらかに偏るものではなかったのです。それも1つのジェンダーフリーと言えるのですが、この世界では受け取る人によっては大きな裏切りとなる行為でもあるのです。お姉さんを好きになればなるほど、ずっと言い出せずにいました。
お姉さんと深い関係になってから半年ぐらい過ぎた頃でしょうか。その日は突然やってきてしまいました。お姉さんの店で1人でご飯を食べていた時に、ふらりと入ってきた男性が、元彼の仲の良い友達だったのです。
入ってきた瞬間「やばい!」と身を隠そうとしたのですが、遅かったです。
私に気がついた男友達が近づいてきて、「久しぶり!あいつと別れてからだから、もう2年ぶりくらい?」と話しかけてきました。
昔から声の大きかったその男友達は、その後も元彼と私の思い出話をとくとくと話し始めました。下手に遮ることもできず、ただ苦笑いをしながら相槌をうつことで精一杯でした。
心配になってカウンターの奥にいるお姉さんに目を向けました。野菜を切りながら、うつむいているお姉さんの表情からは何も読み取れませんでした。
それから数日後、お姉さんに呼ばれて2人で飲みに行きました。なんとなく予感はしていました。
お姉さんからは「前からなんとなく気がついてはいたけれど、もう終わりだね。」と言われました。
もっと激しく怒ってくれればよかったのに、お姉さんはいつもの優しいお姉さんでした。
「 ありがとうございました」私はそう言って、お姉さんと別れました。本当に楽しかったです。お姉さんとの恋愛は幸せでした。
それ以来お姉さんが、私のアルバイト先に来ることはありませんでした。食材の仕入れ先を変えたのだと思います。寂しい気持ちはありましたが、自業自得だという思いもありました。
私の失敗はお姉さんとの関係が終わったことではありません。私のことを信じてくれたお姉さんのことを、深く傷つけてしまったことです。
今でも思い出す度にチクリと胸が刺さります。正直に生きていくのはなんと難しいことなのでしょう。私の生き方はとてもずるい生き方なのでしょうか?その答えがわからないまま、本当のことを誰にも言えないまま、ふわりふわりと歳を重ね続けています。
29歳 販売業のジェンダーフリーな恋愛の失敗談