大失恋で立ち直れなくなった時
私は高校時代から6年間付き合っていた彼氏に振られました。理由は、彼の職場に入ってきた女の子のことを本気で好きになってしまったからというものでした。
彼との恋愛は本当に甘酸っぱい思い出がいっぱいで、このまま結婚するんだろうなという思いがあったのでショックでどうしていいかわからなくなりました。
何をみても彼との思い出につながるし、外を歩いても彼とデートした場所だらけで涙があふれてしまうのです。
泣きすぎて顔はボロボロになり、仕事も手につかず失敗ばかりの日々が続きました。
ある日、仕事の帰り道からなんとなく彼の家の方に歩いていきました。
もしかしたら彼の新しい恋愛はうまくいっていないかもしれない。やっぱりお前がよかったって言ってもらえるかもしれないと期待している部分がありました。
ちょうどそこへ彼が帰ってきたのです。私をみて彼はすぐに駆け寄ってきました。よくデートに遅れてきた彼はこうやって私のところに走ってきてくれたっけ。その姿と重なって胸が高鳴りました。
彼は私の前に立つと「お前ストーカーとか冗談やめてくれよ。俺の彼女は純粋なんだ。なにかしたら本気で許さねえからな」と言い放ちました。
失敗した、来るんじゃなかったと思った時にはもう遅くて、私の心は砕け散っていました。
「俺の彼女」はもう私じゃないんだ。高校時代の私だって純粋だったのに。ストーカーのつもりはこれっぽっちもなかったのに。彼にとって私の姿はもう悪の存在だなんて。
私の何がいけなかったんだろう。大恋愛だったのにどうして失敗に終わったんだろう。
私は何もかもどうでもよくなって、翌日仕事を初めてずる休みしました。
そして一度休むと気力がぷっつりと途切れてしまって、そのまま3日もの間休んでしまったのです。
その間に、会社の人たちからは心配のLINEがあったけど適当に返事をしてあとはずっと寝ていました。
ところが3日目の夕方、同僚のフジタから電話があり「家の近くまで迎えに行くから今から外に出てこい」と呼び出されたのです。
仕事で何かあってわざわざ確認に来てくれたのかと思いました。社会人として最低限のことはしなければとこの時になってようやく起き上がる気になり、着替えました。
これが純粋で真面目なフジタからのデートの誘いだったとは、その時は思いもしませんでした。
失恋を癒してくれる人がそばにいた
フジタからの電話でようやく現実にひきもどされた私は慌てて身支度をして待ち合わせの喫茶店に向かいました。
フジタは同期ということもあり、お互い職場で失敗しても男女という感じでなく純粋に仲間としてなぐさめあってきた仲でした。
きっと私が休んでいる間にチェックすべき案件ができて持ってきてくれたんだろうと思いました。
他の人だとボロボロの状態で会いにくいけれど、彼ならまあいいやと気軽に外に出ることができたのです。
喫茶店で待ってくれていたフジタをみつけ席にいくと、彼は美味しそうにアイス珈琲を飲むばかり。
私もアイス珈琲を頼むとフジタはたわいもない話を始めました。とりあえず飲み物を飲んでから仕事の話をすればいいやと久々に美味しい物を体に流しこみました。
3日のあいだろくに食事をしていなかった体は正直で、私のお腹がグーッとなってしまったのですがフジタがさりげなく「俺腹減ったからお前もつきあえ」と言ってくれて食事もしました。
お腹が満たされたところで仕事のことをきりだすと、フジタは仕事の用事なんてないというのです。
お腹がいっぱいになったから外にでようというのでわけもわからずついて出た私は「何しに来たのよ」ときくと、「お前とデートしに来た」と。
私がポカンとしていると純粋なフジタは顔を真っ赤にして「お前、職場には病気って言って休んでるけど嘘だろ。大恋愛中の彼氏がいるって前にいってたよな。お前をこんなにしたのそいつだろ。俺ならお前を絶対こんなふうにしない」と抱きしめられました。
弱りきっていた私は美味しい食事とフジタのぬくもりが心地よく、新しい恋愛に身をゆだねることを決めたのでした。
私の会社は職場恋愛は禁止ではないものの、交際期間中はおおっぴらにしないのが暗黙のルールです。隠すのに失敗すると微妙な空気になって破局か結婚かと焦ることになるのです。
フジタとの2度目のデートは遠出して海に行くことになりました。元彼と言ってみたいねと話したことはあったけど、結局一度も行ったことのないエリアでした。
フジタとのデートは楽しくて、あっという間に時間が過ぎていきました。夕方になって海をみていた車内はいい雰囲気になりました。
私をグッとひきよせたフジタの体に身を預け、目を閉じました。今度はいい恋愛をしよう、そう思いながら私はシートに倒れました。
私もこれからは純粋に彼だけを愛そう。そう決意して背中に手をまわし、彼の温度を感じて私は吐息とともに「タケル」と呼びました。
その瞬間、私を抱きしめる腕が固まったのがわかり、自分のとんでもない失敗に気がつきました。
こともあろうに元彼の名前を呼んだのです。
フジタはスッと座席を戻しシートベルトをすると無言で私にもうながして運転をはじめました。
どうしたらこの失敗をつぐなえるのかわからないまま、私は涙がとまりませんでした。
しばらくたってから、再度フジタに告白され今は結婚を前提に付き合っています。
もう名前を間違えることは絶対にしません。